統合医療について

 

  • 統合医療とは

「統合医療」とは『目の前の患者さんのために、今ある環境で利用可能な西洋医学や補完医療などの、あらゆる方法を適切に最大限に利用する診療戦略』のことです。医師などの医療スタッフが、その他の補完医療*の従事者と連携して、患者さんの現在の病状、人生観や生死観などの価値観、社会的背景、文化的背景、経済的背景など、あらゆる側面からよく考えて、最新の科学的情報と照らし合わせつつ、どのように診療を進めるべきなのかを、患者さんと決定していく医療のことです。

この診療戦略には二つの軸があります。

  • 西洋医学的空白を作らないマネージメント
  • あらゆる適切な治療法を用いるコーディネート

これらが満たされない統合医療は、『“偽の”もしくは“不十分な”統合医療』といえます。

 

*補完医療:西洋医学でないけれども人の健康に関わる全ての医療サービス。例:サプリメント、鍼灸、ヨーガ、気功療法など。

**補完代替医療:代替医療とは“西洋医学の代わりになる”医療を指します。これに対し「補完医療」は西洋医学と一緒に用いる西洋医学以外の医療を指します。これらを合わせたものが「補完代替医療」ですが、西洋医学と同等で代わりになる西洋医学以外の医療は非現実的ですので、最近は「補完代替医療」とは言わず、「補完医療」と呼ぶのが主流となりつつあります。

 

 

  • 統合医療に対する誤解

統合医療は残念ながら大きな誤解を受けています。

 

 1. 統合医療=補完代替医療 という誤解

統合医療と補完医療は概念が違います。次元が異なる全く別の概念です。

わかりやすく説明するために、補完医療を将棋の駒に例えてみます。

将棋盤を前にして、金の駒は斜め後ろには動けないとか、桂馬は2段前の左右へ動けるとか、個々の駒の動かし方=“戦術”をいくら知っていても勝負には勝てません。これらの駒をどのように動かして勝負に挑むのかという“戦略”が必要です。

補完医療には、アロマセラピーや鍼灸やサプリメントなど、いろいろな駒がありますが、これらの駒をどのように利用するのかという“戦略”が統合医療です。(自称)統合医療の専門家の話を聞くと、残念ながら多くの方が誤った認識をしているのが現実です。統合医療に関係する日本の代表的な学術団体ですら、この誤用が散見されます。

戦略なき戦術は無意味と言われます。真の統合医療は、目の前の患者さんのために、様々な駒をどのように利用して診療を進めるかという「コーディネート」=「診療戦略」なのです。

あなたが「統合医療」という言葉を目や耳にした時、ひとつの駒の動かし方の話なのか、種々の駒のコーディネートの話なのか、判定してみてください。

 

 2. 統合医療は補完医療を無批判に利用する という誤解

補完医療には偽医学とか疑似科学などと揶揄される療法も含まれます。これら科学的に効果がはっきりしない、もしくは明らかにおかしな療法を利用する統合医療は「怪しい」と評価されがちです。

確かに、統合医療にはナンセンスと思われる療法を使わなければならない局面があります。しかし、それには以下のような理由があります。決して、そのような療法を無批判に利用しているわけではありません。自然科学的に評価しナンセンスであったならば、その旨を患者さんに説明した上で、それでもなお利用しなければならない場合があるのです。

 

怪しい補完医療を非難断絶しない理由

がんセンターの専門医になったつもりで聞いてください。近隣の総合病院から患者さんが紹介されてきました。初めての診察の時に、その患者さんに「私は手術も抗がん剤も放射線もやるつもりはありません。代わりに奇仙丹療法を受けたい。ここでは検査だけしてください。」と言われたとします。ここで奇仙丹療法は架空の偽療法です。さあ、あなたならどうしますか?

おそらく、多くの医師の反応は次の二通りのどちらかでしょう。

「うちの病院では、奇仙丹療法はしていないし、医師として私は責任を持てない。他へ行ってくれ」と「拒絶」するか。

「検査はうちでできますが、奇仙丹療法については関知しません。どうぞ勝手におやりください。」と「無視」するか。

奇仙丹療法に希望を託している患者さんは、主治医に拒絶されたり無視されると、“自分でマネージメントを始め”ます。「西洋医学はがんセンターで。サプリメントはココのメーカーのを。奇仙丹療法はこの道場で。アロマセラピーはこちらのサロンで。」といった具合です。これでは患者さんの全体像を把握するのは本人のみになってしまいます。

「患者中心の医療」といわれますが、医師と患者さんの考え方や価値観は必ずしも一致するとは限りません。「患者さんの希望」と「医師の責務」の狭間で医師は苦悩しているのです。たとえ奇仙丹療法なんて偽医学であるとわかっていても、その旨を患者さんに十分に説明し、それでも患者さんが望むのならば、偽医学である奇仙丹療法がどのように行われるのかを「把握」したうえで、病状を管理し診療を続けるのがプロフェッショナルというものです。非難断絶して患者さんが地下に潜り、行政も西洋医学も目が届かないところに行ってしまうのは避けなければなりません。

 

 3. 統合医療=西洋医学+科学的根拠のある補完医療 という誤解

統合医療の怪しいという評価に抗うように、補完医療は科学的根拠があるものだけを用いるべきであるという誤解です。この誤解には二つの問題点があります。

科学的根拠とはなにか

 科学的根拠=エビデンス というのは数学の命題のように証明されるような性格のものではありません。「あるサプリメントは視力回復に有効であると証明された。」という表現は、厳密にいうと正しくありません。科学的根拠というのは常に確率で表現されるものだからです。「どうやらこのサプリメントを飲むと視力が回復するみたいだ」という『不確実な情報』に「どのくらい“不確か”なのか」という“確率”が加わることで、『利用できる情報』になるのです。決して『正しい情報』や『確実な情報』になるわけではありません。補完医療の広告に『証明された』などという表現をしばしば見かけますが、どのぐらい不確かなのかという視点でよく検討する必要があるのです。一般的に95%信頼区間で統計学的に意味があるかを判断することが多いですが(正しい仮説を正しくないとしてしまう確率が5%未満)、その研究に参加した患者さんと目の前の患者さんの背景がすべて一致している可能性はゼロに近く、統計学的に有意であるといっても、診療戦略においてとても重要な情報だけれども、あくまで参考情報にすぎないという認識が必要なのです。

科学的根拠がないものを拒絶すべきではない

 科学的根拠がないものを拒絶するべきではありません。「怪しい補完医療を非難断絶しない理由」でも述べましたが、拒絶された患者さんが、行政や西洋医学の目が届かないところに行ってしまうのは避けなければなりません。さらには「有効であるという科学的根拠がない」というのは「有効でないという科学的根拠がある」と同じではないからです。「有効でないという科学的根拠」とは「悪魔の証明」ともいわれ証明は不可能に近く、偽医学批判で論じられるものです。もちろん「有効であるという科学的根拠がある」ものが診療戦略上優先されるべきですが、患者さんの価値観や病状によっては、「有効であるという科学的根拠がない」ものを利用しなければならない局面があると考えるのが統合医療です。

 

 4. 何かしらの補完医療を利用しなければ統合医療とはいえない という誤解

補完医療を最低ひとつは利用していないと統合医療といえないと考えている人が多いですが、これも誤解のひとつです。例えば、がんの患者さんが、西洋医学的標準治療に加えて、様々な補完医療を選択肢として検討した結果、「今は手術療法+化学療法でいこう」と西洋医学のみを選択したとしても、これは「統合医療」といえます。統合医療は診療戦略ですから、結果として西洋医学だけが実施されたとしても、その過程で西洋医学以外のあらゆる方法が検討されているならば、統合医療なのです。さらに、経時的に患者さんの状況や背景は変わりますから、「今は」西洋医学のみであったとしても、将来は、また違う選択がされる可能性はあり、その時その時の局面で最適な方法は何なのか、常に検討を繰り返すのも、統合医療の大切な側面です。

 

  • 適切な医療を提供するために

「統合医療」は一人の専門家が決めて提供する医療ではありません。様々な専門家が連携して知恵を出し合いながら、患者さんにとって最も適切な医療やサービスを提供しなければなりません。

そのためには、専門職連携教育(IPE: interprofessional education)が必須です。患者さんの医療や介護、ケアに関わる全ての専門家が、お互いの専門性や職域を理解し、誰がどのようなサービスを提供可能なのかを把握する教育がIPEです。

西洋医学的な医療従事者のみならず、補完医療の提供者を含めた全ての関係者の顔の見える連携こそが、統合医療の実践につながります。

 

日本統合医療支援センターは、多職種連携構築を推し進めるために

  1. 補完医療の施術者が医師と連携するために必要な基礎知識の教育
  2.  統合医療支援セミナーの開催
  3. 多職種人材が連携するために必要な情報網の構築
  4. 多職種連携のための電子カルテシステム(ImSS)開発

に力をいれています。

 

 

一般社団法人

日本統合医療支援センター

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